*・・純文学作品「平成」を読んで ・・*at 2002 04/05 14:26
なかなか言葉にして「平成」の読後感を纏めることが できなかった私は、少し打ちのめされたような気持ちでこの 一ヶ月ほどを常よりも内省的な心情で過ごしていた。
作者である青山氏の真摯で誠実なサイト運営方針に魅了され 気が付けばこの作品の第一稿時からずっとその軌跡を 見守らせて戴いて来てこの春氏の宿願でもあった「文學界」への 掲載が無事に為され世に出てこられたのが3月7日(発売日)。 大きく表紙に氏のお名前と「平成」の文字が載っているのを 目にして目頭が熱くなり感激をしてしまった。 「実現がキーワード」という氏のログメッセージとリンクして その実現がこの手にした本だと思えて貴重に感じられた。
冒頭の場面から映画を見るような映像的なシーンの連続で 圧倒された。白桔梗が花弁を閉じて描かれている絵を前にしての 会話の記述が禅問答を読んでいるようで強く印象に残った。 「花というものは、いつも開いてなくてもよい。そういう含意ですか」 「その方が静かかもしれませんね」 白桔梗は物語の終わりに近い部分で今度は開花して登場する。 「平成」のキーマンの一人である“ホリデイさん”の自宅玄関前で さり気なく咲いていたのだ。
何気ない記述であるようで最初から最後の<了>に至るまで 一字一句作者の細やかな配慮と思いが繊細に篭められ それでいて昭和から平成への大きな時代のうねりを個性的な 表現で描かれている気品ある作品である。
総研での超が付く多忙な仕事をこなしながら何度も何回も改稿を繰り返し練って(きっと膨大な量の原稿が惜しげもなく没にされていると思われる) 230枚の枠の中に収めた作品である事を承知していたので私としてはただ漫然と読むことはできないのである。 「平成」自体にもそういう迫力が静かではあるけれど柔和でも あるけれどあるので私はいつもは かなりの速読なのだけれど、「平成」に限ってはユックリと読まずにはいられなかった。
「天皇陛下のご病状報道」及び「ご崩御報道」当時を思い出しながら 読み進めた部分では多くの大人が感じた「自粛」への違和感やら 「過剰反応」やらそうであっても「厳粛な空気」が日本中を覆い自分もまた昭和が逝ってしまうその瞬間を目にして生きた証人の一人であるという妙な興奮も蘇って来たようであった。 その時人知れず水面下で報道関係者はギリギリの緊張感の中で 「Xデー」を追っておられていたのだなということが伝わり 他社との競争が日常の報道現場の様子やその取材風景・事情など政治部記者であったご経験が充分に活かされている。
問題が多い現代日本の病理である一種の狂気を描きつつ それでもこの国を愛する気持ちに溢れている作品でもあって 何度も目を通しているのだがその都度新しい発見があり 再読をどうしても促されている日々である。 「なぜ本を出すか。一緒に考えたいから」という氏の ログメッセージにあるようにもっと深く考えたいと思うからである。
人の立場はもう多種多様で事情も言い出したらきりがないのが 人間の営みである。それでも今、「平成」が発表された事は 一つの「希望」であると感じる。これからどう生きるのか、これからこの国は どうしていったらいいのか、「人が生きる事」の根幹に触れるテーマに迫る作品の誕生は大きな「希望」であると言えよう。 そして日本を見据え考え描き続けるであろう一人の純文学作家の誕生に一読者として友人として立ち会えたことは私にとって大きな喜びである。
…世の動きはどうであれ私情におかまいなしに進み動く。 新しい首相官邸への引越しは4月中らしい。 また一つ時代の終了と出発がそこにあると思われる。
From★Eruzeッ Mint.mamu…★
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